クリスマス

クリスマス


我が家のクリスマスは、たぶんごくありふれたどこの家庭でもあるような一般的な光景であったと思う。

だいたい父が8時頃帰宅してお風呂に入る。僕たちは当然先にお風呂も済まし、まだかまだかと待ち構えたように食卓を囲んでいる。父がお風呂から出て来る頃合いを見計らって、母が食卓にチキンやスープなど、普段の食卓では並ばないようなちょっと豪華な料理を並べ出すのだ。そして父が食卓に着くと僕たちは隠し持っていたクラッカーを一斉に鳴らし、そこから我が家のささやかなパーティーの開始である。ひととおり食事(僕にとっては前菜)が終わると、いよいよ主役の登場である。母がいそいそと席を立ち、台所から大きな箱を抱えて登場という流れだ。ケーキも当時は今ほど豪華ではない。そもそもケーキは「白_色」が基本なのだ。今のような豪華絢爛なデコレーションにラズベリーの赤色やチョコレート色をしたケーキなどは稀だった。というか、僕は白色のクリームケーキ以外は見たことなかった。それも今思うととてもシンプルなやつだ。真っ白な中に真っ赤なイチゴが幾つかデコレートされ、Merry Christmasと書かれた板チョコの横にはチョコでできたサンタさんの家、そしてもちろんサンタクロースだ。そしてケーキの縁に沿うように数本立てられた色とりどりのロウソク。

なんという至福の時間だろう。部屋の灯りを一旦落とし、このロウソクの赤々と揺らめく暖かい炎を見ていると、子供心にとても幸福感を感じた。よくロウソクを誰が消すかで弟達と争いになったが、結局は全員で吹き消していた。

そしてここからもう一つの争いが勃発する。つまり「僕のが小さい、お兄ちゃんずるい・・・」といった、これもよくある争いだ。結局、「おまえにはサンタクロースをあげたんだから我慢しろ・・・」といったような駆け引き交渉で決着する。

我が家では、子供は9時に就寝が基本であったが、クリスマスの日だけは無礼講というか11時頃までは起きていても何も言われなかった。その理由はテレビでクリスマス特番をやっていたからだ。だいたい当時は今のテレビ番組のようなお笑い芸人が出てきて馬鹿騒ぎするような番組はなく、クリスマスらしい映画や歌番組などが主であったような気がする。 僕が一番覚えているのは、ケーキを食べた後に家族皆で「スティング」という映画を観た思い出だ。どういうわけかクリスマスの思い出の中では一番記憶に残っている。映画自体がとても楽しかったことはもちろんだが、皆で夜遅くまで一緒に過ごしたことが、クリスマスという一大イベントの中の光景としてしっかりと脳裏に記憶されているのだ。子供には子供のクリスマス、そして大人には大人のクリスマス、いくつになってもクリスマスはわくわくする。