懐かしき公衆電話ボックス

昔は公衆電話ボックスは日常的な風景としてよく目にしたものである。実際僕の住んでいた田舎町でも公衆電話ボックスは普通に存在し、よく利用していたものである。
昭和40年代といえば各家庭にはダイヤル式の黒電話が設置されていたのだが、それでも公衆電話ボックスを利用している人はかなりいた。
実際に公衆電話ボックスというと街中には必ずあったのだが、見渡す限り田園の中にもポツンと一つだけ寂しそうに設置されているのを見かけた。なんでこんなところにあるのだろうと思ったこともあるのだが、実際に農家のおじさんとかが農作業の合間に自宅にでもかけているのだろう。たまに利用している姿を見かけたものである。
また、公衆電話ボックスといえば僕ら子供の遊び場でもあった。よく電話ボックスに友達を閉じ込めたり、逆に僕が閉じ込められたりと、この空間を利用して鬼ごっこやいたずら遊びをしたものである。
実際に電話機の受話器を取っては、ツーツーという音を聞きながら電話ごっこをしたり、またこの機械的な仕組みが子供心に何かしらの好奇心を植え付けたのも事実である。
冬になり寒くなってくると、暖を取るためによく電話ボックスに入り込み、その中で漫画本も読んだりした。ボックス内は日中の太陽の暖かさがこもり、かなり暖かいのだ。田舎なのでほとんど利用者もいないから、小一時間入っていても誰も来ない。だから占有して遊ぶことが出来たのである。
今ではスマートフォンが普及し、街中でもほとんど公衆電話ボックスを見かけることはなくなった。便利さと引き換えに街の風景の一部を切り取られたみたいで寂しい気もする。
とくに、僕が子供時代に目にした田畑の中にポツンと佇む電話ボックスの光景は、今でも目に焼き付いていて、郷愁を感じさせずにいられない。こういった風景は僕の中での風景遺産でもあり、今でもどこか地方の山間に行けばあるのではないかとつい探してしまうのである。