甘柿と渋柿

昔は小学校の登下校時に柿を採っては食べたものである。
都心ではほとんど見かけなくなったが、今でもちょっと郊外の庭のある家には大きな柿の木があるのを見かける。そして、柿の木を見上げると橙色のいかにも熟していそうな柿の実が実っているのが目に入る。
こういった光景は僕が子供時代によく目にした光景である。民家の庭から木の枝が塀を飛び越して、熟した柿の実がいまにも落ちてきそうに実っている様はまるで勝手に採ってくださいと言っているようなものである。
実際に地面を見ると既にいくつかの熟柿が落ちて潰れていたものである。もちろん手が届く高さの柿は拝借していたが、だいたい木の枝にぶら下がっているのは高い位置のものだけである。だから羨ましそうに天を仰ぎながら木の下を通り過ぎていったのである。
さて、柿は柿でも甘いものと渋いものがある。たいがい大きくて形のよいものは渋柿であるという定説が僕ら子供の間ではまかり通っていた。実際にリンゴのように引き締まったお尻がスマートな柿は渋柿であった。甘い柿は形状がまん丸で、″ずんぐりむっくり″している。
それでも、僕らはよく間違えたものである。食べて初めてその渋さに気が付くのだ。
渋さも半端ではない。想像を超えた渋さというのが妥当というほかない。
そういった渋柿を大量に採ってきてしまった時は、祖母に頼んで吊るし柿(干し柿)にしてもらった。
最初はなんで渋柿が甘い吊るし柿になるのかと信じられなかったものである。初めから甘柿を使えばもっと甘い柿になるのにと本気で思っていたのだ。
とはいえ、僕はそれほど吊るし柿(干し柿)が好きではなかった。あのぐちゃっとした形状がどうしても好きになれなかったのである。もちろん見た目を気にしなければ十分甘くて美味しかったのではあるが。
そういった吊るし柿も今では過去のものとなってしまった。たまにこの時期になると地方の土産物屋さんで売っているのを見かけるだけで、最近は都心ではほとんど見かけない。そうなると、あまり好きではなかった吊るし柿が食べてみたくなるのである。