野良犬の吠える晩

子供の頃は野良犬があちこちにいた。むしろそういった光景は日常的なもので、特段珍しくはなかった。
中には野良犬のくせに人懐こい犬もいて、そういった犬には僕たちは給食で残したコッペパンを食べさせて一緒に遊んだものである。
両親には狂犬病があるから気を付けるようにとは言われたことがあるが、僕達にとってはそれほど危険という認識はなかった。
それほど野良犬は日常的な存在であったので、とくに夕方から夜になると犬の遠吠えを聞いたものである。特に田舎の夜は静かであるから、犬の吠える声はよく聞こえたものである。今だったら近所迷惑が問題になるところだが、野良犬にしても飼い犬にしてもそんなことで問題になるようなことは全くなかった時代である。
むしろ、遠吠えをなんとなく心地よく聞いていた自分もいる。
夜中に寝静まったころ、遠くのどこかで野良犬か飼い犬か知らないが、時々吠える声が聞こえてくると、いろいろ想像するのである。どこの犬だろうかとか、悪い人がいて吠えているのだろうかと、いろいろ想像力を働かせるのである。
そんなことを考えているうちにいつの間にか自分も寝入ってしまうというパターンである。この遠くの犬の鳴き声は、今思うと懐かしくて仕方ない。これから秋もさらに深まり、木枯らしの吹く寒い季節がやってくる。そうなるとこの季節感と相成って犬の遠吠えの声がなんとも言えない風情を醸し出すのである。