風邪をひいて休んだ日

子供の頃は特別身体が弱かったわけではないが、それでも真冬になると年に一回は風邪で学校を休んだりしていた。たいてい風邪になると二日くらいは休んで寝ていた。風邪で寝ている時はもちろん熱があれば辛いのだが、両親や兄弟までもが優しくしてくれるので、ある意味嬉しくも感じていた。熱が下がってくると、だんだん寝ているのも退屈になり、漫画を読んだりしていることが多かった。
ある日、兄弟揃って風邪を引き休んだことがあった。二人で大人しく寝ていると、ちょうど家の台所の改修工事をやっていたので、大工さんが出入りしていた。お昼時か昼過ぎか忘れたが、母がお茶を出して、それを大工さんが休憩時間に飲みながら世間話をしていた。僕はうとうとしながら大工さんの会話を聞いていたが、なぜか大工さんの会話というか声がとても心地よく耳に入ってきた。会話の内容などはどうでもよく、会話のトーンがBGMのように気持ちよかった。大工さんに限らず、昔から人の会話が心地よく耳に響いてくる。とくに何もしないで静かにしているときに入ってくる世間話は気持ちよかった。また、銀行の定期預金の預け入れなど、集金に来てもらっていたが、その時の会話や書類をめくる音、日付印を押す音なども大好きである。風邪で休んだ日は、日中の来客もあるので母が応対していたが、僕はそんなやりとりが大好きで、布団の中で心地よさに浸かっていた。