製材所

製材所

僕が幼少の頃通園していた保育園の真向いに製材所があった。真向いといっても道路を挟んでおり、また保育園自体は道路から若干奥まった場所にあった。

道路にしても、ほとんど車の通らない田舎の狭い道であり、交通事故とは無縁の道であった。

そんなわけで、閑静とは言わないまでも静かな環境ではあった。製材所の騒音を除いては。

製材所の音はチェーンソーのような木材を切ったり切断したりする甲高い音である。昼休み時を除いては朝から夕方まで常にこの甲高い音が響いていた。

僕らは保育園の児童だからそれ以上に甲高い声を発していたので、製材所の音がうるさいと感じたことは一切なかったが、たまに製材所の音が止んだときは、一瞬の静寂が訪れ、そのギャップに却って戸惑ったものである。

今思えば近隣にも民家がたくさんあったので、特に隣近所等はさぞかしうるさかったのだろうなと思うのだが、当時は不思議とそういった苦情めいたことは全く聞かなかった。

実際に製材所の隣には〇〇荘という昔ながらのアパートもあり、知り合いの人も住んでいたのだが、騒音についての苦情めいた話は聞いたことがなかった。

むしろ、たまに昼休みとかに近所のおばさんと製材所の所長さんが楽しそうに談笑している姿もよく見かえたほどである。

製材所の音ばかりクローズアップしてしまったが、実は僕ら子供にとっては製材所はなくてはならないものでもあった。

というのは、製材所には「おが屑」が大量に発生するからだ。夏場になると、このおが屑が宝の山になるのである。夜になるとカブトムシやクワガタなどが製材所のおが屑に集まってくるのだ。また、自宅で飼育するにしても、製材所からおが屑を分けてもらって、飼育ケース内に敷き詰めることもできる。

さらに、ちょっとした遊び道具として木の切れ端も役に立つ。このように子供にとっての製材所は宝の山であったのだ。

また、僕は木の匂いが好きであった。製材所からは常に木材の匂いが漂ってきて、特に外で遊んでいる時にこの木材の匂いを嗅ぐと、なんともいえない落ち着いた気持ちになるのであった。

よく図書館に行くと便意を催すという話を聞くが、思うにその状況と近い気がしてならない。やはり田舎で育ったせいか、木の匂いや温もりには人一倍の興味と魅力を感じる。たまには自然の中に足を踏み入れて、少年時代の感覚を呼び戻したいものである。