平(たいら)のおじさん

平(たいら)のおじさん

僕等が小学生の頃、放課後になるとランドセルをほっぽり出し、近所の田圃に遊びに出掛けたものである。特に稲刈りが終わった後は、絶好の遊び場になった。その田圃は、平(たいら)のおじさんが管理していた。

僕らは学校の帰り途によく平のおじさんの家に立ち寄った。おじさんの家はおばさんと二人暮らしのようだが、おばさんはどちらかというと子供はあまり好きではなさそうで、僕等が遊びに行くと迷惑そうな素振りを感じさせていた。その反面、おじさんは子供好きで、僕等を実の子供のように可愛がってくれた。

遊びに行くと、庭の枇杷の木から枇杷を採ってくれたり、将棋を教えてくれた。おじさんは田圃を幾つも持っていて、また桑畑も所有していた。だから、養蚕もやっていて、二階の納屋みたいな場所には蚕が沢山いたのを覚えている。

また、田圃に行く時は、農作業用のテイラー!?というトラクターの後ろに乗せてくれた。

そして、ある時おじさんが東京に仕事か何らかの用事で行った時、わざわざ他人の子供の僕にロボットのオモチャを買って夜に届けてくれたことがあった。僕から頼んだわけではなく、おじさんがいつも遊んでいる僕らのために好意でお土産を買ってきてくれたのだ。

うちの両親はひたすら頭を下げ、恐縮していた。このように、平のおじさんは、とても子供想いの優しいおじさんだった。だから皆大好きだった。あの当時で50歳くらいだっただろうか、だから今は90歳を超えた計算になる。しかし、存命しているかどうかは今となっては知る由もない。もし願いが叶うならば、もう一度平のおじさんに会って、あの頃を懐かしく語らいたいと思う。