上履き

上履き

大人になってからは縁のない履物である。しかしたまに昔ながらの商店街で真っ白く爪先の部分のみに赤や青の色がついた上履きを吊るしで売っている光景を見ると、懐かしさが込み上げてくる。「まだ売っていたんだ」という驚きの感覚も同時に込み上げる。たしかに僕らの年代からしたら、あれから40年以上は経っている。だから絶滅していても不思議でないのだ。

しかし、この上履きには沢山の思い出が詰まっている。だいたい買い替えるまで1年間は履き続けるのだが、子供の頃は走り回ったり、体育館での体育の授業も上履きでやっていたから、早ければ半年もしないうちに親指の付け根部分や踵辺りから綻びが生じてくる。なかには指の飛び出そうなくらい穴が空いた上履きを履き続けている子もいた。色も白なので汚れも目立ち易く、買い替えの頃には灰色の上履きになっているのである。もちろん頻繁に洗剤で洗ってはいるのだが、なかなか汚れは落ちないのである。

また、廊下を歩く時にゴム底が擦れる、キュッ、キュッという音も懐かしい。あの音を聞くだけで、小学生時代の廊下の木目模様まで鮮明に思い出すことができる。今だからこそ思うのだが、上履きこそもっとも機能的で履き易い靴だったのかも知れない。軽くて履きやすく、靴擦れもしない。見た目はどうであれ。