教頭先生

教頭先生

小学生時代の6年間、僕は2人の担任の先生にお世話になった。クラスメイトは17名しかいなかったので、クラス替えなどはなく6年間同じ顔ぶれだ。その6年間にお世話になった2人の担任の先生に関しては、今でもちゃんと覚えていて、とても印象に残っている。担任なんだから当然のことではあるが。

しかし、担任以外の先生では何人か印象に残ってはいるが、顔と名前が一致しなくなってきた。記憶が薄れてくることは、とても寂しいものである。

ところで、記憶が薄れる中において担任と同じくらいに印象に残っているのが教頭先生だ。

絵がとても上手であり、またとても子供好きで温厚な先生だった。だから僕に限らず全校生徒から好かれていたと思う。小学校に入学して初めて教室に案内されて入った時、とても感動した覚えがある。大きな黒板に色とりどりのチョークで、新一年生とお母さんが描かれており、その背景には桜の木と花びらが黒板の隅々まで鮮やかに散りばめられていた。今でいうチョークアートだ。それを見た時に、そのスケールの大きさと色使い、そして美しさに目を奪われてしまった。まさしく芸術に初めて触れた瞬間であった。それほど上手に描かれていた。今でもその絵は細部まで思い出せるほどだ。

その絵を見た時は誰が描いたのかは分からなかったのだが、数日後に教頭先生が描いたものだと担任の先生から知った。毎年描いているのだそうだ。

絵の上手さだけではなく、いつも廊下や校庭で必ず声をかけてくれた。いま思うと教頭先生が怒ったり叱ったりしているところは見たことなかった。直接会話した記憶こそないが、その人柄は十分伝わっていた。それほど大好きな先生だったのである。もしかしたら、僕の人生に関わった人達の中で一番温厚な人ではないだろうかと思う。大人になった今も是非会いたい人の一人ではあるが、教頭先生自身は当時すでに高齢だったので、叶わぬ夢になってしまったかもしれない。