下宿人の前田君と玉子かけ御飯

下宿人の前田君と玉子かけ御飯

僕が小学校に上がる前の話であるが、祖父と祖母の家には父の弟である叔父さんともう一人、下宿人の前田君がいた。

父の弟である叔父さんが当時はまだ高校生で、前田君も高校生である。どういう経緯か分からないが、祖父達の家に下宿して、叔父さんと一緒の高校に通っていた。だから、僕が遊びに行ったり泊りに行ったりすると、前田君とよく顔を合わした。さすがに年齢的に離れていたから一緒に遊んだりすることはなかったが、なぜか今でも印象に残っている。

一番覚えていることは、朝御飯の時だ。玉子かけご飯を食べた時、前田君がお椀に割った生卵を落とし、器用に箸で音を立てながらかき混ぜている姿だ。別に特別なことでもないが、僕は生卵をうまくかき混ぜることができなかったから、前田君の器用に素早く生卵をかき混ぜている姿はとても印象に残っている。

そういえば、あの頃の人達は、前田君に限らず、御飯を食べ終わると、必ずご飯茶碗にお茶をそのまま注いで飲んでいた。湯呑みは湯呑みであるのだが、必ず御飯茶碗に注いで飲んでいた。いま思うと懐かしい。朝食を美味しく食べた時代である。